光合成よりも呼吸が先
呼吸には酸素が必要だ。そして、光合成は二酸化炭素を必要とする。なんとなれば、まず光合成をする生物が地球上に出現し、次に酸素を利用する呼吸が進化したと考えるとつじつまがあう。けれども、呼吸の方が起源が古い。 生命の系統樹のほとんどは、顕微鏡サイズの生物で構成され、23本のうち、3本、動物、植物、菌類だけに大型生命が存在する。動物と植物は20もある進化の枝の二つにすぎない。進化系統学では生物を大きく3グループに分類する。古細菌、真正細菌(光合成細菌、シアノバクテリア)、真核生物だ。そして、光合成は、真正細菌と真核生物にはあっても、古細菌では見られない。つまり、呼吸が先なのだ。
海底の熱水が生命の起源
これまで、生命は浅い海で産まれたと考えられてきた。けれども、最近では、最初の生命は、深海の熱水噴出口で産まれたとの説が有力だ。 光合成は地球上の全生命の生存基盤になっているのだが、例外がある。1977年に光合成に依存しない生態系が深海底にあることが発見されたのだ。この生態系は、熱水噴出口から湧き出す熱水と周囲の海水中の無機物をエネルギー源として使っている。
光合成が出現する以前の生物、古細菌(化学合成細菌)は、水素を還元力として使っている。けれども、その原料となる化学物質は少ない。だから、生物の量もおどろくほど少なかったはずだ。 光合成は温度センサーが起源だった 光合成を行う生物で最も原始的なものは光合成細菌だ。そして、光合成の色素の起源も熱水噴出口の生態系にあるとの説もある。 光合成細菌には、緑色イオウ菌(硫化水素を利用)、紅色細菌(有機物を利用)の2タイプがある。いずれも、現在の植物とは異なるクロロフィル、「バクテリオクロロフィル」を持ち、それを用いて、光合成をしているのだが、植物クロロフィルが吸収する可視光よりも少し波長が長い近赤外線を吸収する特徴を持つ。
さて、深海には光が届かない。だから、光合成をする生物はいないと考えるのが常識だ。けれども、やはり、深海の熱水噴出口で、「αプロテオバクテリア」の仲間と思われる生物が発見され、「Citromicrobium bathyomarinum」との学名が付けられた。αプロテオバクテリアは、ミトコンドリアの起源となった細菌の仲間で、光合成細菌の多くもこれに含まれる。そして、Citromicrobiumも、バクテリオクロロフィルaを持つ。 けれども、光がないのになぜ彼らは色素を持っているのだろうか。現在、考えられているのは、温められた物質が放射する赤外線だ。熱水噴出口近くの温度は400℃にも達する。周囲には、弱いながらも赤外線が放射されている。水には赤外線を吸収する性質がある。このため、その部分の波長が削られ、周囲には800~950 nmと1,000~1,050 nmの2カ所でピークを持つ赤外線が放射されている。これは、まさにバクテリオクロロフィルaとバクテリオクロロフィルb色素の吸収波長領域と一致するのだ。 おそらく、光合成細菌は、熱水に近づきすぎてゆだってしまわないセンサーとして色素を使っていたのではあるまいか。赤外線を遠くから感知するためのセンサーとして使われていた色素が、やがて光合成色素に使われるように進化した可能性もある。生物の起源だけではなく、光合成の起源も深海にあるのかも知れない。
光合成細菌の登場
光合成細菌の登場は、光を利用することが地球の生態系で始まったという意味で画期的なことだった。 もちろん、光のエネルギーを利用して二酸化炭素を有機物に固定することでは光合成と同じだ。けれども、光合成細菌は、水を分解して酸素を出すことはしない。例えば、光合成細菌は、硫化水素を分解して硫黄を産み出す。後述するように、二酸化炭素を固定するには「還元剤」が必要だ。光合成細菌は還元剤として、有機物や硫化水素など無機物を必要とし、そうした物質があるところでしか生息できない。その意味では、光合成以前の生物と大差がなかったことになる。
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