キューバのアグロエコロジーは進展しているのか
キューバのアグロエコロジーについては数多くの文献が出ている。例えば、ハドソン研究所(Hudson Institute)のグローバル食料問題研究センターのデニス・エーブリー(Dennis Avery)所長は、「キューバ人たちは偽りの食で飢える(Cubans Starve on Diet of Lies)」でこう述べている。
「キューバ人たちは、1990年代前半にソ連からの補助金が途絶えた後、農業用の燃料や化学資材を使わずに、自ら養うことを英雄的に学んだと全世界に口にしている。農民協同組合、生物農薬、有機肥料について自慢している。ミミズ農法や破壊的な害虫を捕食する天敵バチ、そして、トラクタを代替えするために訓練した牛耕も誇りにしている。全世界の有機農業の活動家たちはこれに恍惚となっている。だが、ハバナ在住の米国利益代表部の職員によれば、現在、キューバはその消費食料の84%を輸入していることを農業省の高官が認めているのだ。有機農業の成功は、すべて偽りだった。鉄のカーテンの背後にいる独裁者が自由世界を騙すために冷戦時代にワンパターンで使ってきた巨大で、けばけばしい共産主義スタイルの大きな嘘っぱちなのだ」
このエーブリーという人物は、有機農業を長年批判し、遺伝子組換え作物、農薬、食品照射、工業的農業、自由貿易を支持している人物で、『農薬とプラスティックで地球を救う。高収量型農業の環境勝利(Saving the Planet With Pesticides and Plastic: The Environmental Triumph of High-Yield Farming)』(2000)という著作もある。
ちなみに、ハドソン研究所を資金的にバックアップしているのは、アーチャー・ダニエルズ・ミッドランド、コン・アグラ、カーギル等のアグリビジネスで、アメリカン・サイアナミッド(American Cyanamid)、チバガイギー、モンサント、シンジェンタ等のバイテクや農薬企業である。氏のキューバ有機農業観にはかなりバイアスがかかっていると見た方がいい。
一方、キューバの有機農業を長年支持してきた、ピーター・ロゼットやミゲル・アルティエリ博士は、キューバのアグロエコロジーを絶賛する。 「私どもが知る限り、2008年に三度のハリケーンの襲来後、キューバは、その消費総食料(非公式の数値)の55%を輸入している」とキューバが食料を輸入している事実を認める。そして、最近キューバを訪れた人々が収集した事例証拠から、キューバの有機農業生産は近年落ちているとも述べる。 しかし、エーブリーが「キューバのアグロエコロジー・モデルが崩壊寸前だ」と断言するように、キューバのアグロエコロジーの実績を称賛するすべてのレポートも「大きな偽りである」ことを、これは意味するのだろうかと問いかけ、こう続ける。
「キューバは世界でおそらく最も気候変動で被害を受けている国だ。だが、2008年の3度のハリケーン被災にもかかわらず、受け入れられる水準で食料自給を維持できたことは印象的だ。アグロエコロジー農業は、キューバで成長して、より強化されている。 キューバの自立小規模農家、ANAPのメンバーの約半分、10万世帯が、アグロエコロジーによる多様化を実践し、商業的な産業型農業よりもはるかに多くの食料を面積当たりでは生産している。こうした家族農業の多くはカンペシーノ運動(Campesino a Campesino)の一部であって、25%の土地だけで、国内食料の65%以上を生産している。こうしたキューバの経験からのデータは、単一作物の収量ではなく総生産量を考えれば、大規模農場よりも小規模農場の方が格段に生産力があることを示す研究を確証する。ANAPは経験をわかちあい、ローカルな研究や問題解決能力を強化することに重点を置く、「農民から農民へ」のモデルの技術革新や普及プロセスに、積極的に参加することに特別の関心を払っている。そして、この過程が進むにつれ、より小規模な農業者も、このアグロエコジー革命に参加している。現在、政府は、就農希望家族に最大13.5haの農地を提供しており、10万件の申請が寄せられている。目標は、キューバの食料主権を確実にするため、150万haをアグロエコロジーで管理することを達成することにある」
「都市農業での業績も成長しており、まことに顕著だ。38万3000 の都市農場が、さもなければ未利用地となっていた50,000haの遊休地を含め、150万トン以上の野菜を生産している。ハバナや、ヴィジャ・クララ他の都市では70%かそれ以上の生鮮野菜を供給できるほどだ。トップの都市農場は、合成化学物質を全く使用せず、20kg平方メートルの収量を達している。世界で他のどの国もフードマイル、エネルギー使用を抑えて、現地生産と消費サイクルを終えるこの効率性のレベルの成功をなし遂げてはいない」
ピーター・ロゼットとミゲル・アルティエリ両博士は、最近の10州の農場の実情調査視察を行い、何百人もの農業者、農学者、政策立案者と話し、こうした発展を確証していると主張する。
だが、だとするとなぜマクロ経済としてのキューバ農業は衰退しているのだろうか。 ロゼットとアルティエリ博士は、「経済封鎖下での人道主義的な食料販売という抜け穴で、米国からの輸入食品の影響が大きい。米国の経済封鎖やありうる武力行使に対抗するサポートを求めるために、キューバ政府は何らかの政治的決定をしたように思える。米国企業から年々高額な、本質的には不要な食品を大量に購入しているのだ。こうした輸入増は、近年キューバの全国生産を低下させ、それが、ラウル・カストロ国家評議会議長が対処策を決意する主張につながっている」と主張するのだが(2)、それほど話は単純ではあるまい。
キューバの有機農業がどうなっているのかを明らかにするには、点としてだけの優良事例だけではなく、面として地域がどうなっているのかを調べてみることが役立つ。
キューバの文献ではこうした事例調査はなかなか見当たらないが、カナダの大学では学位論文ではなく、修士論文クラスでも、学生たちがかなり掘り下げた調査をしている。以下、ネット上で見つけたそうした修士論文のひとつの概要を紹介する(2)。
あいまいなキューバの有機農法の定義
キューバは有機農業のリーダーとみなされている。その経験は「近代史上最大の慣行から有機農業への転換」(Rosset and Medea, 1994)、「大規模での近代的慣行農業から準有機農法まで転換の壮大な実験」(Rosset, 1997: 291)、「有機農業への一晩の転換」(D’arcy, 2005)、「有機革命」(Warwick, 2001: 54)と称されている。
有機農業や持続可能な農業システムでキューバが世界的に重要なリーダーであると示唆する文献上は無数にある。だが、キューバの農業セクターの文脈で「有機」や「持続可能」という言葉が厳密に何を意味するのかの定義は簡単には手に入らない。あるときは「キューバ農業は全体として有機である」とされ、またあるときは「準有機である」とされ、またあるときは「持続可能である」とされ、またあるときは「アグロエコロジーである」と記述され、こうした様々な用語の境界はあいまいにぼかされたままなのだ。キューバの文脈では、有機農業とは何を意味するものなのだろうか。まず、歴史的経過を見てみよう。
経済危機以前から準備されていた有機農業
キューバ農業は、ソ連の援助を受けた緑の革命型の近代生産モデルであった。近代農業技術は、個人農家や協力組合農場よりも国営農業でより盛んであった。 経済危機以前に個人農家や協働組合農場が管理する農地は全体の20%にすぎなかったが、伝統的な低投入型の比較的持続可能な農法が維持され(Funes, 2002)、それが、全国レベルでの高投入型技術からの転換の基礎となった。 また、他の世界の多くの地域と同じく、キューバにおいても1960~1970年代にかけて、環境意識が高まる。その一部はDDT等の農薬の悪影響を指摘したレイチェル・カーソンの古典「沈黙の春」等の書籍が出版されたためであった(Funes, 2002)。この意識の高まりから、1970~80年代にかけ、キューバの学会や農業省(MINAGRI)、大学は慣行農業に批判的となり、オルタナティブ技術の開発に研究の重点を置きはじめた(Rosset, 1997; Warwick, 2001; McKibben, 2005)。かくして、農場でも研究レベルでも、経済危機以降に用いられる資源の準備ができていたのだ。
投入資材の転換
一般には有機農業とは、化学肥料や農薬等を有機堆肥等の生物投入資材で代替することとされ、それは、ほとんどの有機認証規定の柱にもなっている。キューバにおいても「投入資材の代用が新たな農業の柱となっている」とFunes(2002)は述べ、この成否が有機農業の指標と見られていると指摘している。この代替は、「高投入型から低投入型農業への転換(Rosset, 1997)」、「投入資材集約的型の技術から知識とマネジメント集約型技術へ(Funes, 2002)」、「石油、化学資材、機械等の工業的投入から、オルタナティブ・エネルギー、バイオ防除有機体、雄牛等のローカル生産された持続可能な投入資材へのシフト」と記述されている(Rosset, 1997)。
投入資材の代替えでは、キューバの転換は実に急速であった。一例をあげれば1991年には、作物の56%がすでにバイオ防除されている。これは、有機農業の進展で、約1560万米ドルの経費節減につながった(Rosset and Medea, 1994)。また、雄牛群も1990年には約5万頭であったが、2000年には40万頭となり、これが耕作用でトラクタを代替していた(McKibben, 2005)。
伝統技術も近代技術も一緒に使う
有機農業は、反近代でローテクの低投入型伝統農業に回帰することと思われがちである。だが、伝統農業だからといって、必ずしも持続的なわけではなく、実際、極めて環境破壊的な伝統農法もある。 キューバでは、近代技術よりも資金がかからないため (McKibben, 2005)、有機農業への転換の一部として、伝統農業への回帰が積極的に奨励された(Rosset, 1997; Nieto and Delgado, 2002)。McKibben (2005: 64)は、キューバにおける準有機農業を高投入型のトラクタ農法に匹敵する発明だと評価する。だが、キューバでは、近代農法と有機農法とが明確に区別されているわけではなく、現場状況に応じて、いずれも尊重されている。最も初歩的な伝統農法も、経済的緊急事態でやむなく講じられた措置というよりも、現在の農業課題に対応する多様な技術のひとつとみなされている(Mart´ın, 2002: 69)。
農場規模
機械化農業では規模を拡大した方が効率的だが、大規模農業では、きめ細かいマネジメントやリサイクルが難しい。有機農業のように知識に基づく生産では小規模な方がより効率が良い(D’Souza and Ikerd, 1996)。このため、有機農業では、大規模な有機農業という発想そのものに無理があると主張されることがある。 キューバにおいては、砂糖、カカオ、コーヒー等、大規模プランテーションにおいても有機農業への転換が始まっているが、その転換スピードは小規模農場や協同組合農場と比べると遅い(Funes, 2002)。P´erez and Echevarr´ıa (2002: 273)は、砂糖やタバコ農場について「大規模農場での有機農業の道のりはまだ遠いのが実態だ」と認めている。つまり、ほとんどの大規模農場は、いまだに慣行農業のままで、有機農業への転換が進んでいるのは、小規模農家やその組織である(Warwick, 2001; Ricardo, 2003)。有機農業には、土地特性に応じた知識が求められ、小規模農家の方が農地との親密度が高いからである。経済危機の初期には、大規模国営農場が解体され、小規模化する農業改革がなされたが、これは、有機農業への転換の一助となった。
輸出指向生産と地産地消
有機農業では、地産地消か輸出志向かも大きな課題である。多くの有機農業推進派は、地産地消の重視を有機農業の一部とみなすべきだと主張している。食料の遠距離出荷には環境負荷があり、健全な自給自足型コミュニティづくりには地産地消が欠かせないとみているからだ。だが、現実にラテンアメリカの有機農業の多くは、地産地消よりも先進国の有機食品マーケットを志向している(Raynolds, 2000; Gomez Tovar, 2005)。
しかし、キューバは違う。有機農業への転換は、地域の食料安全保障の達成(Rosset and Bourque, 2002; Funes, 2002)やPerera (2002: 7)の言う「食料主権」の重視と同時並行的に進行している。もっとも、地産地消を重視しているといっても、キューバはいまだに毎年9億米ドルも農産物を輸入している。1980年代の食料輸入額は年間10億ドルだから、さして下がっていない。おまけに、国内需要を満たすため、米、小麦、小麦粉、肉、ミルク、大豆等を輸入に依存し続けている(FAO, 2005)。
Rosset (1997)は、経済危機初期の飢饉を避けるために、この転換が必要だったと指摘する。事実、経済危機が始まると、キューバはその食料50%以上を輸入せざるをえず(Nieto and Delgado, 2002)、突然の輸入食料の落ち込みによって、地元の食料安全保障が緊急課題となった。 現在、どれほどの有機農産物が、生産されるコミュニティ内で直接消費されているのかの統計は得られない。とはいえ、非公式の評価からは、地域内消費がかなり多いと示唆されている(Alvarez, 2002; Funes, 2002)。その食料のいくらかは、生産者が直接自家消費しているが、それ以外にも地域内流通の選択肢がある。1994年に再オープンした民間の農民市場だ。それは、政府の配給制度を補完し、多少の可処分所得を持つ人々に、地元生産物を販売する機会を生産者にもたらしている(Sinclair and Thompson, 2001; McKibben, 2005)。
都市農業も、地産地消を重視しており、Altieri et al. (1999: 132)はこれを「生産が密接に都市住民と結びつく、都市から直接の影響を受ける都市及び都市近郊内で生じるすべての農業家畜生産」と定義している。 1989年以前も、自家菜園のいくつかは都市部にあり、食料源となっていた(Wezel and Bender, 2003)が、こうした菜園は低開発の象徴として否定的に見られる傾向があった(Altieri et al., 1999)。しかし、ソ連崩壊以降、家庭菜園やコミュニティ菜園が食料危機に対応する不可欠の手段となったため、この意識は急速に変化していく(Altieri et al., 1999; Chaplowe, 1998; Warwick, 2001)。現在は、たとえ、農業経験がほとんどなくても、地元政府から無料で食料生産用の土地を市民は取得でき、多くの人々が申請している(Altieri et al., 1999)。現在は、何千もの都市菜園があり、ハバナ市では何万人ものが都市農業部門で職を得ており、2004年には30万トンの食料(果実や野菜のほとんど、そして、米や肉もかなり含む)を生産した(McKibben, 2005)。都市農業は魅力的な分野となっており、Wezel and Bender (2003)は、賃金が高い都市農業セクターに仕事を得ようと、国家公務員たちに転職傾向があることを指摘している。 キューバの都市菜園は、地元生産と地域内流通システムを創造することで、地域の食料安全保障の改善で重要な役割を果たしている。そして、有機農業モデルの主要事例としても認識されている。市域内では化学肥料や殺虫剤の使用が禁じられ、結果として、地力を達成し、病害虫を防除するために都市菜園では有機農法が用いられることとなっている(Altieri et al., 1999)。同じく重要なのは、都市農業によって創設された地産地消のネットワークだ。それは、コミュニティ内に社会的な絆を構築するという有機農業の理想を満たし、食品輸送で引き起こされる汚染を削減している(Altieri et al., 1999)。しかも、リサイクルされた投入資材や地域で利用可能な資材(ミミズ堆肥等)を用い(Altieri et al., 1999)、結果として、有機農業の支持者たちが、「よりディープな形式での有機農業」とみなす閉鎖系生産システムを作り出している。
キューバの有機農業が、地産地消ネットワークの重視と関連してこれまで発展してきたことは明らかだ。とはいえ、国が輸出用の有機業生産を計画している動きもある。国際市場での有機認証農産物の高価値を用い、砂糖、カカオ、コーヒー、蜂蜜、果物等の伝統的な換金作物を有機認証しようと働いているのだ(Funes, 2002)。この輸出生産に向けた転換によって、有機農業が意味する内容も変化していくかもしれない。 「不十分な外為の現在の経済状態… それが、輸出用の有機農産物やマーケティングを支持している」(Funes, 2002: 23)。 とはいえ、輸出指向生産に向けてキューバがどのように動いていくのかは不明確だし、輸出マーケットを重視した有機認証農産物によって、換金作物を輸出し、食料を輸入するというキューバの以前の立場に戻るのかどうかもわからない。
キューバには有機農業の哲学はあるのか
投入資材の代替えは、ほとんどの有機認証基準の基礎をなす。だが、有機農業には簡潔には定義できない難しさがある。それは、ホリスティックな一連の価値観や理想主義だ。有機農業は、純粋に経済的な利益から、社会と自然との関係についての深遠な哲学的な信念にまで及ぶ動機づけがある。 キューバの有機農業モデルは、主に経済的な動機づけと輸入資材の代替に基づく。とはいえ、有機農業への転換で、小規模な農場や地産地消のネットワークが大きな役割を演じたことから、投入資材の代替えモデルよりは、はるかに深く、ホリスティックなものだともいえよう。事実、キューバには、ホリスティックな有機農業アプローチが存在する証拠がある。Funes (2002:23)は投入資材の代替えだけでは不十分であり、「相乗メカニズムを最大限に利用することに向けた、有機農業や持続可能なモデルに基づき、作物、家畜生産、森林管理他のサブシステムを統合的、一致して組み合わせる複雑なアグロエコロジーのシステムを開発するために働かなければならない」と主張している。Garc´ıa (2002)も、投入資材や特定の生産技術を越えた基本的な哲学的な相違を含めた、慣行農業と有機農業との違いを示唆している。 すなわち、アグロエコロジーへのシフトは、農村における普及教育プログラムの内容をただ改正するだけでは達成できない。持続可能なシステムを確立するには、農業を孤立した単位とみなす思想的なメンタリティを、学際的(interdisciplinary)、ホリスティックなアプローチが農業の本質であるという概念にシフトさせることが必要だ。
キューバの有機農業には深い哲学的な基礎があることを示唆する証拠はある。とはいえ、前述した輸出の可能性に向けた転換を含め、これと相容れないトレンドもある。例えば、急速、かつ、おおがかりな有機農業への転換でキューバは賛美されている。だが、その一方で、政府は慣行農業も維持しており、おそらく今後も維持され続けるであろう(Funes, 2002)。有機農業が実際にどれほど実践されているのかの詳細な情報も手に入らない。慣行農法とバイオテクと有機農業を組み合わせるという問題もある。キューバの新たな農業ビジョンのコアにあるのは、哲学的、道徳的有機農業なのであろうか。それとも、よりプラグマティックなアプローチにすぎないのであろうか。
McKibben(2005)は、普段は有機農業を実践していても、ジャガイモで害虫が発生すると、化学合成農薬を用いるあるキューバの農民の事例をあげている。キューバの農民たちは、正しい食べ物の生産方法だとの強い信念のために、自ら有機農業生産を律しているのではなく、利用可能で実用的であれば、いかなる選択枝を用いても構わないと思っていると示唆している。しかも、Warwick (2001)の指摘によれば、予防原則に基づき、圃場試験は優先されていないが、キューバはバイオテクノロジーのかなりの研究も行っているのだ(McKibben, 2005)。
まとめ
キューバの有機農業についての既存文献をみても、キューバ人たちが、どのように有機農業を定義し、どのようにそれを見ているのかを、的確に主張できるだけの十分な情報が得られない。文献の多くは、慎重な科学的調査を行うよりも、むしろ、事例証拠か一般的な印象に基づいているようにさえ思える。既存文献を分析してみれば、キューバの有機農業モデルが投入資材の代用や、伝統技術と近代技術の組み合わせに基づいていることがわかる。農場の規模や構造でいえば、有機農業は、小規模な個人農場、CCS、CPA、UBPC、そして、とりわけ、都市部の様々な土地所有構造で実践されている(Rosset, 1997; Chaplowe, 1998; Altieri et al., 1999; Funes, 2002)。一般には、大規模な国営農場よりも小規模な農場の方が有機農業に迅速に転換している。とはいえ、農場の規模が、キューバの有機農業の要素であることを示唆する証拠もほとんどない。また、キューバの有機農業の思想上で地産地消が重視されているのか、あるいは、現実的な食料安全保障への一時的な実用的対応なのかどうかもわからない。さらに、文献からは、キューバ人たちが、社会や自然とのホリスティックな哲学としてどの程度有機農業をみているのか。あるいは、逆に経済的に動機づけられた投入資材代替えの手段とみているのかの決定的な結論を下すための証拠も得られない。 ただし、最も明確なことは、現在のキューバ農業が、有機農業の数多くの原則や実践(ミミズ養殖、廃棄物リサイクル、代替エネルギー利用、保全耕起、間作、混作、畜産学、そして、バイオ防除、バイオ農薬、バイオマス等の地元で生産されるバイオ投入資材)を組み込んで、それ以外のほとんどの国よりも、はるかに系統的にそれをしているということだけだ(Rosset and Medea, 1994; Rosset, 1997; Warwick, 2001; Funes, 2002; CIC, 2003)。
【引用文献】
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