はじめに
キューバが持続可能な農業に向けて、大きく歩み出していることは確かだ。とはいえ、アグロエコロジーの支持者でさえ「No es f´acil」 (それは簡単ではない)と述べている。「No es f´acil」とは、楽観的な 「S´ı, se puede」の反対の言葉として、アイスクリームの味の悪さから、困難な農業転換まで、キューバではよく使われる表現だ。キューバの研究者たちも農業を説明するうえで、この両方の表現を使う。 では、アグロエコロジーが将来的に発展するには何が必要で、何がその運動のネックとなるのだろうか。 まず、生産者から特定された主な課題、資源不足、生産者の知識と専門的技術の制約、そして窃盗がある。第二は、米国とキューバとの緊張関係だ。これは、キューバのアグロエコロジーの発展に、課題とチャンスの両方を産み出している。そして、最終に、キューバのエコ生産物の市場にどのような可能性があるのかを見てみたい。
堆肥原料やバイオ農薬が手に入らない
前述したように、キューバでアグロエコロジーに向けて急転換がなされた鍵は資源不足だった。とはいえ、有機資材、バイオ農薬等のオルタナティブな資源やソーラー・パネルや風車のようなオルタナティブ・エネルギー源も簡単に手に入るわけではない。 近年、キューバはベネズエラに対してアグロエコロジーの普及支援を始めている。とはいえ、資本のあるベネズエラは、キューバよりもさらに早く、アグロエコロジーが導入できている(インタビュー17、2005)。つまり、オルタナティブな農業技術を導入するうえで、経済危機は、動機づけと同時に制約要因にもなっている。ある者はこう語る。
「私たちが失っているのは、資本と資源です。政治的な意思や専門的な科学技術があり、それはとても重要な要素ではありますが、やりたいと思えることをすべてやれる資源がないのです」(インタビュー19、2005)。
その苛立ちは話し声からも明白だった。 アグロエコロジーの成功には、有機資材が欠かせないが、それが不足している。これが、資源不足の最も喫緊な課題だ(インタビュー22、23、2005、インタビューI-XII、2006)。 キューバでは経済危機以来、牧畜乳業が崩壊し、製糖業も衰退し続け、堆肥原料となる厩肥やカチャザ(cachaza)が不足している。有機資材不足に対応するうえでは、ミミズ堆肥は有望な方法だが、農場で製造するには多くの作業を要し、農場外から十分な量を買えないほど価格も高い。バイオ肥料も有効だが、高額で数多くの生産者たちの手には届かない。おまけに、ある一人の生産者が指摘するように、十分な土壌養分がなければ、最高のバイオ肥料でさえ、有効には機能しない(インタビューVII、2006)。 地力を高めるうえでは、カバー・クロップと緑肥が最も容易な手段である。だが、これだけで養分不足が解決できるのだろうかと、多くの生産者は疑っていた。地力不足が深刻なため、大多数の生産者は、問題に対応できるならば、化学肥料であれ、バイオ肥料であれ、使える手段は何を講じてもかまわないと考えているのだ。自分たちで自給し、国との契約条件を満たし、望むれば、多少の副収入を得られるだけの食料を生産することが、最優先されているからだ。
植物防疫の状況も同様だ。バイオ肥料やミミズ堆肥技術が開発されたのと同じように、生物的防除(lucha biol´ogica)に向けた数多くの研究開発は行われている。とりわけ、植物防疫(Sanidad Vegetal)の仕事やバイオ防除資材を生産・流通するCREEを創設したことは、化学農薬のオルタナティブとして重要だった。とはいえ、サン・ホセ・デ・ラス・ラハス・ムニシピオでは、調査時点では、CREE製品を利用できたのは調査に参加した生産者のうち、3名だけだった。以前は、サラゴサにあるCREEがムニシピオにサービスを行っており、ほとんどの生産者はバイオ防除資材の値段を制約とは見なさず、当時は多くの生産者が利用していた。だが、最近の財源不足と建物を学校として使うためにこれが閉鎖された。今、一番近いCREEは、隣りのムニシピオ、ヒネス(G¨uines)にあるものだが、交通が麻痺しているキューバでは、ほとんどの農民たちにはヒネスまで出かけることは論外だった。 理論的にアグロエコロジーで生産支援できることと、実際に普通の生産者が使えることにはギャップがあるのだ。生物害虫防除のワークショップでは、トリコグランマ(Trichogramma)をキャッサバ畑に適用するプレゼンがされたが、それに対して一人の生産者が「どこで製品が得られるのか」と尋ね、現在は地元供給がされていないと口にしたときこのことは明白となった。 まもなくサン・ホセ地区にミミズ堆肥センターが建設され、2006年末には、植物防疫全国センター(CENSA=Centro Nacional de Sanidad Agropecuaria)がトリコグランマを生産し始め、ムニシピオのために新たなCREEもできる限り早く活動をはじめてほしい。農民たちは強く望んでいた。とりわけ、一人の地元農民は、協同組合を通じて、クラスでCREEのことを学んでいたために期待が強かった。なぜなら、彼の協同組合にはCREE製品のストックがなく、彼自身もヒネスにでかけることができなかったからである。
アグロエコロジーの専門知識や技術が不足している
このように、生産者たちに十分な知識があっても、資源が不足している。だが、これとは別に、農村部でアグロエコロジーの知識や専門技術が不足していることも、持続的農業の発展の課題としてあげられた(インタビュー19、21-23、2005)。アグロエコロジー技術は、慣行農業のように形式的なものではない。成功するには、生産者たちが高度なトレーニングを受けなければならない。さもなければ、複雑な有機資材の準備や適用が効果的になされず、そのメリットを生産者も得られない。ある一人の研究者はこう説明する。
「いまだに農村では知識が不十分です。中学校を卒業したカンペシーノでさえ、有機物をうまく使えるほど土壌のことをよく知りません。多くの人民がアグロエコロジー生産をうまくやれていないのは、自分たちがどのような物質を適用しているのかの情報を欠いていて、適切に分析されていないからなのです」(インタビュー23、2005)。
生産者たちを教育するプログラムはある。とはいえ、全員が受けるには時間もかかり、普及プログラムやプロジェクト資金も限られている。 キューバの大学や研究センターには極めて高度な知識や専門技術が存在し、それは、持続可能な農業を開発するうえで大きな利点だ(Rosset, 1997)。とはいえ、現実的には使える資金から、この知識を生産者に普及する能力には限りがあるのだ。これは、南側におけるアグロエコロジー開発に共通する課題だ(Pretty and Hine, 2001; IFAD, 2003)。 サン・ホセ・デ・ラス・ラハスの生産者の間でも、全国農業科学研究所やハバナ農科大学と関係があるかないかで、知識の差異は明白だった。例えば、サラゴサで実施されている全国農業科学研究所のプロジェクトに参加している生産者たちは、参加を通じて得られる知識や支援に大いに感謝していた(インタビューIII、IIIa、IV、2006)。また、直接プロジェクトと関係していない別の生産者も、全国農業科学研究所のスタッフとの個人的な関係を通して提供される支援がとても貴重だと強調した(インタビューIX、2006)。総合的な農場マネジメントを開発するプロジェクトの一環として、ハバナ農科大学の学生たちと協働する農民たちも、熱心に普及支援を受けていた(インタビューXII、2006)。 タパステ(Tapaste)のコミュニティでも、ハバナ農科大学のプロジェクトに参加する農場とそれ例外の隣接農場との違いは明白だった。参加農場は、地力問題解決の一助としてミミズ堆肥システムをまさに構築し終えていたが、一方は、なんら生産の可能性が改善できないことに打ちのめされ、普及職員がめったに訪ねないことにも苛立っていた(インタビューXI、2006)。 また、農民たちが普及プロジェクトに参加し、知識ベースを築きあげても、それを選択をしない場合もある。これには、多くの理由がある。改良の可能性についての懐疑心、普及員に対する懐疑心、自立への願望、支援を求めることへの躊躇、他のコミュニティ・メンバーとの個人的な対立、ワークショップやミーティングにさける時間不足他だ(インタビュー23-25、2005; インタビューIII、V、X、2006)。普及業務に従事する職員からすれば、生産者たちのやる気のなさは時にはいらだたしい。普及員たちは、農民たちがなぜ抵抗するのかも理解し、問題を克服しようと心がけていると指摘した。
窃盗
有機資材や潅漑システム等の資源不足、特定の知識や専門的技術不足は、キューバのアグロエコロジー開発にとって、直接的な難題だ。とはいえ、間接的であっても、キューバの農業の転換で脅威となっている差し迫った問題がある。それは窃盗だ。資源制約を別にすれば、サン・ホセ・デ・ラス・ラハスの生産者からあげられた最大の懸念のひとつは窃盗だったのだ。調査に参加した全員がこの課題には同意したが、それは数年前には存在しなかった。だが、生産者は「経済危機の災難が、新たな自暴自棄を国にもたらし、これが窃盗に通じている」と説明した(インタビューXI、2006)。 もちろん、生産者全員が個人的に窃盗を経験したわけではない。とはいえ、多くの生産者が収穫物の少なくとも一部を失い、ある者は、山賊(bandidos)によって牝牛や雄牛さえ失っていた。生物的害虫防除のワークショップにおいて、ある生産者は冗談でこう尋ねた。
「山賊のための生物学的コントロールはあるのかね」
全員が笑ってうなずいたが、それは、いかにこの問題が広範であるかを示す。この課題への対応策として、多くの生産者たちはやむなく農場で夜警を実施している。ミルク生産で重要なことから、乳牛の窃盗は政府からかなりの罰金が科されるが、これは、牛を飼育する生産者にはとりわけ重要だ。 一般に、夜警に携わる人はまったく眠らず、次の朝も丸一日の仕事を始める。何人かの生産者は番人役を務める特定の労働者を見つけることに関心を示したが、規則上は公的許可なくどんな労働を雇うことも禁じている。このため、これがグループに大きな負担となっているのだ。ある一人の生産者はこう説明する。
「それはとても、とても困難です。私たちは、一日中、毎日働いています。夜に休息するのは、とても重要です。もし、夜に休息できないなら、仕事でベストをつくすことは不可能です」(インタビューX、2006)。
別の生産者は、窃盗問題をと農場の長期的な持続性と直接つなげる。農場を改良しても多くの泥棒を引き寄せるだけとの懸念から、土地改善へのインセンティブが感じられないと指摘する(インタビューXI、2006)。アグロエコロジー開発のネックとしては土地所有の不安定性が、よく挙げられるが(Pretty and Hine, 2001; IFAD, 2003; Gray and Moseley, 2005)、キューバにおいては、生産者が農場改良へのモチベーションを失うことから、窃盗から生み出される不安定性が、潜在的にはるかにダメージが大きいのだ。
米国との関係は両刃の剣
1959年の革命の勝利以来、米国とキューバとは闘争関係にある。米国政府は、情報収集活動(intelligence operations)と厳しい経済封鎖の双方を通してカストロ政権の破滅を活発に試みている(Weinmann, 2004)。キューバ系米国人となじみがない者にはありそうもなく思える。とはいえ、かなりの多くの研究関係者が、キューバの農業を故意に妨害する米国政府試みを真剣に懸念し、何人かは、CIAが、カストロ政権を倒すため、農業生産で危機を引き起こすため、過去に病虫害をキューバにもたらしたとコメントした(インタビュー19、21、24、26、2005)。ある植物防除の専門家は、アグロエコロジーの植物防除への最大の障壁はCIAだとさえ示唆した(インタビュー19、2005)。 CIAの活動で引き起こされる脅威は、直接的なものだと数多くのキューバ人たちが認めている。とはいえ、農業開発にとり、より緊喫な課題は、米国の経済封鎖である。一人のNGOの職員は、電話、インターネット、一般的な消費、旅行の可能性、エネルギー使用でもそれが深刻な制約となっているとし、キューバの暮らしの全面にわたり経済封鎖の影響が明白だと説明した(インタビュー3、2005)。地理的な距離からすれば、米国は最も合理的な貿易相手国である。とはいえ、キューバはそこから製品を輸入できない。このため、かなり遠方から輸入しなければならず、米国から買える場合と比べるとかなり輸送経費がかさむ。しかも、大規模企業の製品は比較的廉価だが、キューバはこの規模の経済を活用できず、米国製品をより高額で販売する小規模な企業から輸入しなければならない(インタビュー3、2005)。この状況が、キューバ経済を全体的に窒息させ、結果として、オルタナティブな農業が長期的に成功するうえで重要な資本や資源アクセスの制約となっている。
このように、米国の経済封鎖は、キューバのアグロエコロジー発展を困難としている。とはいえ、慣行生産からの転換を促すうえで重要な役割を演じたのもまさにこの経済上の必要性であった(Rosset, 1997; Chaplowe, 1998; Altieri et al., 1999)。このため、一見不幸と見える経済封鎖も、何人かの研究関係者たちは、ある程度幸運としてみなしていた。一人のNGO職員はこう説明する。
「封鎖により作り出されたニーズが、私たちがより創造的で、私たち自身の国内で私たちの問題の独創的な解決を探すことを強いたのです」(インタビュー3、2005)。
キューバの社会全体のためになる全国的に生産されたワクチン開発等の画期的な研究開発にこの巧みさがつながったと彼女は指摘した。 農業については、米国製品が欠如していることが、農業投入資材の国内生産開発の動機づけに明らかにつながった。エコミック等のバイオ肥料、商標登録されたバチルス菌のブランド、とりわけ、キューバのユニークな土壌と気候条件に適した多くの交配種子がそうだ(インタビュー10、20、22、2005)。この種類の内発的なイノベーションは、まさにPretty and Hine (2001) やPugliese (2001)が持続可能な農業開発プログラムの成功に必要だと主張していることだ。 この現実を熟知し、研究者やNGO職員も、キューバの高水準の国家生産は、ほとんどの発展途上国では珍しいが、それは、不安定な国際市場に種子や農薬への依存度が減ったことに大きなメリットがあると指摘する(インタビュー14、19、21、2005)。
多くの国は輸入される緑の革命の技術や投入資材に依存したままにとどまっているが、米国政府がその立場を強いたことで、キューバはこの運命から逃げることができたのだ。 貿易の可能性が限られていることから、経済的な自立や主権の維持にコストがかかるとの主張もされる一方で、アグロエコロジーの推進を含め、キューバが独立した農業政策を追求することを可能とする点では、米国の農業多国籍企業の不在が不可欠なのである(インタビュー20、21、24、2005)。
キューバ市場において廉価な慣行生産された食料が欠如していることも、慣行農薬や種子の欠乏と同じく重要だ。キューバのアグロエコロジーに向けた転換は、イデオロギー的信念よりも、経済的な必要性に根ざしているからだ。一人の研究者はそれをこう表現する。
「ここの有機農法はライフスタイルではありません。キューバ人たちは、経済的な必要からエコフードを食べています。私たちはそれが人生観の一部であることから自然食品を食べるスイス人とは違うのです。より廉価な食料が利用できるのならば、キューバ人たちは一番安いものを何でも買うことでしょう」(インタビュー20、2005)。
つまり、規模の経済を利用して生産された米国の慣行農産物が、キューバ市場で販売可能であれば、キューバ国内で生産されるエコロジー農産物の多くが、競争で苦戦することには疑問の余地はない。これがまさにメキシコ他の世界の多くの国々で、より持続可能な小規模な農業がアグリビジネスにより乗っ取られているとMcKibben(2005)が主張していることなのだ。
有機農産物販売でチャンスを得る
米国とキューバとの関係が貧しいことから、キューバは有利な米国市場に輸出することはできない。とはいえ、多くの人々が、国際市場でエコ製品を販売することが、アグロエコロジー運動の強化につながると指摘した(インタビュー1、6、19-21 24、25、2005)。現在グローバルな有機セクターが280億米ドルと評価され、食品市場の急成長部門のひとつとなっている(IFOAM, 2006)。このため、現在キューバで広まるエコ産物に、かなりの価格プレミアムを支払っても構わないと考える消費者も増えている。こうしたプレミアムを活用すれば、貴重な外為がもたらされ、結果として、将来的なアグロエコロジーの成功を担保する経済的インセンティブがもたらされるかもしれない。既に、蜂蜜、柑橘類、砂糖、コーヒー、タバコは国際機関の認証を受け、有機認証を受け輸出されている。
とはいえ、多くの南側諸国や北側の多くの小規模な農民たちと同じく、認証経費が高く、かつ、複数の市場で販売するには複数の認証機関の認証が必要なことが、キューバの生産者にも参入障壁となっているが(インタビュー4、2005)、キューバ農業には協力的な構造がある。長期的には集団的な認証を行うことが、各個人の経費削減の一助となることから、この難題を克服できる可能性はある(Gomez Tovar, 2005)。
認証有機農産物市場は潜在的には有利だ。とはいえ、コストや組織的な課題から、現在は、数人をのぞいて国際的な有機認証は、手の届かないものとなっている。また、キューバのアグロエコロジー生産の多くは、多くの認証機関の厳格な認証基準に応じるものではない。例えば、種子は一般に有機認証されていないし、ほとんどの農場も完全無農薬とはなってはいない。現在、キューバは国際的にも認められる自前の認証制度を構築しようと国際的企業や有機認証機関と働いているが(インタビュー6、2005)、生産物は「有機」ではないため、多くの生産者は認証を受けられないであろう。 この課題に対し、キューバの対応は、60%や95%有機等の様々な段階での有機認証基準を創設したり、有機ではなくアグロエコロジーの生産ラベルを設けることであろう(インタビュー19、2005)。現在も「ナチュラル」や「エコ的に優しい」として消費者に販売されている製品があることから、このやり方には先例がある。とはいえ、こうした産物は一般には有機農産物と同ほどはブランド化されていない(Buller and Morris, 2004)。 このように国際市場で有機認証を得るには多くの課題があるとはいえ、多くの人々は、いまだにこのニッチ市場の開発がキューバのオルタナティブな農業生産の将来の強さを確実にする重要な手段であるとみなしていた。
生産者には高付加価値化という概念がない
一方で、生産者たちの多くが、認証にわずかの関心しかもたず、認証有機生産物の高付加価値化の概念を理解できなかったことも指摘しておく価値があろう。これは、一人の研究者が指摘したように、生産物のほとんどは国に販売されることで流通され、農民たちが、直接市場や消費者とほとんどつながっていないからだ(インタビュー20、2005)。
最近再オープンした民間のファーマーズ・マーケットが状況を変え始めているとはいえ、剰余生産物しか、個人的には売買できないし、生産者たちはいまだに商品を市場価値で販売するという概念がない。有機認証の可能性にわずかの生産者しか関心を示さないことは、さして驚くべきことではないのだ。 このように農村の農民たちは、市場から外されたままにおかれている。
だが、都市生産者は、ほとんどの産物を個人的に販売できるため、かなり状況が異なる。そのうえ、国の厳しい農業化学資材使用規制のため、一般の基準からキューバの都市生産は有機農業と分類できる(汚染された土壌、空気、水等の都市汚染問題についての議論はあろう)。参加した生産者のうち、エコ生産による価格プレミアムを利用するという概念に関心を示したのは、都市農業者だけだったが、その一部はおそらくこうした要素のためであろう。 研究を行った時点では彼の生産は有機とは認証されていなかったが、ホテル・チェーンにミントを販売することで、すでにエコ生産の高付加価値の利益を得ていた(インタビューI、2006)。このホテルは、モヒート(mojitos) を作るためにミントを購入していたが、モヒートは、外国人観光客に人気が高い飲み物であるため、大半のキューバ人とは異なり、高品質のエコ製品を望み、かつ、代金を支払えるのだ(インタビューI、2006)。このため、この生産者は、そのアントレプレナーの能力のおかげで、確実に有機農産物のプレミアムによる経済益を獲得できたのだ。このモデルの可能性を認め、一人の研究者は、もし農民たちが、安全やエコ的な意識をもつ外国人観光客に直売できるならば、これが、キューバのアグロエコロジーの将来的な成功を確実にする一助となる重要なインセンティブとなるかもしれないとコメントした(インタビュー20、2005)。とはいえ、現在のところ、この可能性は、わずかの例外を除き、いまだに開発されないままにとどまっている。
まとめ
生産者たちの間でオルタナティブな資源やアグロエコロジーについての専門的技術が不足していること、窃盗や米国の破壊工作への恐怖心によって最近高まりつつある不確実性等が、アグロエコロジーの発展にとって重要な課題だ。とはいえ、政治的な主権と社会主義制度をキューバが強力に維持していること、そして、世界の多くの地域で緑の革命型の生産を奨励しているモンサント等の巨大農薬企業がキューバに存在しないことが、農業のオルタナティブな発展の豊かな土壌を作り出す一助となっている。認証有機農産物のプレミアムは、現在は重要な役割を果たしてはいない。しかし、今後、利益のあがるニッチ有機市場にキューバのエコ生産が参入する可能性は多い。
【引用文献】
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