世界各地では、地力維持のため、いまも焼畑農業(Shifting cultivation, swidden,slash and burn agriculture)が行われている(2)。とりわけ、熱帯農業では人口密度が低く、痩せた土地に適した農法といえる(3)。
森林を伐採し、焼却すると森林バイオマスにストックされていた養分が、無機灰の形で土壌に供給される。最初の数年は収量が高いが(2)、作付を続けると養分が減り、雑草や害虫も侵入し始めるため、作物は栽培できなくなっていく(3)。 最大5回ほど作付けた後(3)、圃場は放棄し、別の森を切り開く。放棄された圃場は、数年~数十年も休閑される。十分な休閑期間を設ければ、地力が回復し、このサイクルはほぼ無限に繰り返すことができる(2,3)。
しかし、栽培地域は完全に放棄されるわけではなく、バナナ、アボカド、コーヒー、ココナッツ等、有用な多年生植物は残され、その後も収穫される(3)。雑草や害虫への作物の反応や必要とする養分が異なる別の作物を次々と栽培していく。例えば、フィリピンのハヌノー(Hanunoo)族は、伐採後の一年目には、コメとトウモロコシ、次にはサツマイモ、ヤマイモ、キャッサバ等の根菜類を植え、最後に、バナナ、アバカ(abaca= Musa textilis)、竹、果樹を植えている(Conklin 1957)(2)。
多くの焼畑農業では8~10年の休閑期を設けることで、土壌侵食を引き起こしていない(Kalpage 1976, Lai 1982, Sanchez 1976)。また、多くの伝統的な焼畑農業は不耕起栽培で行われ、機械的な開墾よりも土壌浸食が少ない(Sanchez 1979, Seubert et al. 1977)。森を焼いた後では土壌の透水性が高まることから、むしろ流水が減ることもある(Suarez de Castro 1957)。さらに、土壌が剥き出しとなる期間も数週間にすぎず、木の残骸や炭片、灰等が土壌を土壌を浸食から防ぎ(Sanchez 1976)、大きな樹木は畑に残され、生きた根やリターが表土を固定し、浸食を防いでいく(Nwoboshi 1981, Eckholm 1976)(1)。
伝統的な焼畑は、コミュニティでの自給的な生き方とセットとなっており、人口圧がその地区の環境容量を超えない限りは、人間との良いバランスがとれていた(2)。 しかし、1957年時点では、約2億人が焼畑農耕に従事していたが、1987年にはこれが3億人に増えている(Russell 1988)。人口増加や利用できる土地が減ったことから、休閑期が短くなり、それが、土壌侵食や生物多様性の増加につながっている(3)。例えば、タイ北部では、森林を伐採した急傾斜で農業を行うことで、土壌侵食が生じている(Sheng 1982)。台湾、エル・サルバドル、ジャマイカの急傾斜地での伝統農法では、100~200t/ha・年もの土壌が失われている(Sheng and Michaelson 1973, Hsu et al. 1977, Sheng 1982)(1)。現在の短期間の焼畑農業は、持続可能な農業とは言えない(3)。
【引用文献】
(3) Traditional Agriculture, Dalhousie University over the period 1998 to 2001.
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